スプレッドシートのアプリ化、何を使えばいいですか?

スプレッドシートのアプリ化を調べると、AppSheet、GAS、Gemini と名前が並びます。どれも「できます」と書いてあって、どれを選べばいいのかが分からない。しかも出てくる記事の多くは、その道具を売っている側が書いたものです。私はどれの代理店でもありません。自分の現場で使うために組んで、実際に人に使ってもらっている側です。だから「これはやめておいたほうがいい」も書けます。ここでは作り方ではなく、選び方だけを書きます。

スプレッドシートのアプリ化、何を使えばいいですか?

結論、欲しいのが「画面」なのか「自動化」なのかで、道具は決まります。

理由は、名前が並んでいる道具が、実は同じ仕事をしていないからです。AppSheet は、表を画面にする道具です。表を読み込ませると、その表を見たり書き足したりするための入力画面を自動で組み立ててくれます。いっぽう GAS(Google Apps Script)は、表の中で決まった作業を代わりにやってくれる道具です。※GASとは: スプレッドシートに小さな手順書を仕込んで、毎朝集計する・自動でメールを出す、といった作業を任せる仕組みのこと。画面は今のままです。

具体的には、こう分かれます。「現場の人がスマホから入力できるようにしたい」なら AppSheet。「入力は今のままでいいから、集計と転記を勝手にやってほしい」なら GAS。画面が欲しいのか、手間を消したいのか。ここを先に決めてしまえば、比較記事を何本読んでも決まらなかったことが、10秒で決まります。

無料でどこまでできますか?

結論、作って、自分たちで試すところまでは無料です。人に配る段階から有料になります。

理由は、無料の範囲が「試すための無料」として設計されているからです。AppSheet の場合、無料で使える範囲は試す人が10人までで、期限はありません。作る画面も、機能も、ひととおり触れます。ただし、できあがったものを現場の人へ本番として配る段階になると、使う人数ぶんの有料プランが必要になります。金額は変わることがあるので、ここでは書きません。公式の料金ページで、そのときの数字を見てください。

具体的には、この順番が損をしません。無料の範囲で1つ作る → 自分たちだけで1〜2週間使う → 実際に使われたら、そのとき初めて契約を考える。逆にやりがちなのが、先に人数ぶんの契約をしてから作りはじめることです。多くの場合、最初に作ったものは作り直しになります。作り直しは失敗ではなく、普通の工程です。だから、作り直しても痛くない状態で試すのが正しい順番です。

Geminiに言えば、アプリを作ってくれますか?

結論、作ってくれます。ただし、多くの人が期待しているものとは違うものができます。ここが、スプレッドシートのアプリ化でいちばん誤解されているところだと思っています。

理由は2つあります。ひとつは、日本語で書けばアプリの骨組みを作ってくれる機能が、有料アカウント向けだということ。無料の範囲では使えません。もうひとつがもっと大事で、そこで作られるのは、AppSheet 側に新しく用意された表です。いま手元で使っているスプレッドシートではありません。

具体的には、こういうことが起きます。「清掃の日報を管理するアプリを作って」と書くと、日付・担当者・現場名・写真、といった列を持つ新しい表が作られ、その上にアプリができます。中には見本の数字まで入っていて、これは消してから使うことになっています。つまり「今の表がアプリになった」のではなく「似た形の表が、隣に新しく建った」という状態です。3年ぶんの記録が入っている今の表を活かしたいなら、その表を自分で読み込ませる従来のやり方になります。
これは欠陥ではありません。ゼロから始める人には速い道で、すでに表がある人には遠回りの道、というだけです。自分がどちらなのかを先に知っておくと、途中で「思っていたのと違う」とならずに済みます。

アプリにしないほうがいい表は、ありますか?

結論、あります。2つあって、どちらも作りはじめる前に見分けられます。

ひとつめは、1行の意味を口で説明できない表です。「この表の1行は何ですか?」と聞かれて、「1行が、1回の点検です」と即答できるなら大丈夫です。「うーん、上のほうは月ごとの集計で、下は明細で、右のほうにメモがあって…」となる表は、アプリにした瞬間に使いにくくなります。理由は、アプリが1行=1件として画面を組み立てるからです。表の形がそのままアプリの形になります。道具の始め方はこちらの記事に書きましたが、そこでも最初の作業は操作の勉強ではなく表の掃除でした。

ふたつめは、使う人が1人しかいない表です。アプリにする値打ちは「離れた場所にいる複数の人が、同じ1つの表に書き込める」ところにあります。1人で完結している作業なら、多くの場合、表のまま使うほうが速いです。道具を入れると仕事が減る、とは限りません。減るのは、人と人のあいだで起きていた受け渡しの手間です。そこが無い仕事に入れると、覚えることだけが増えます。

アプリ化すると、実際に何が変わりますか?

結論、「打ち直し」が消えます。

理由は、記録する場所と入力する場所が、ひとつになるからです。現場で紙に書いて、事務所に戻ってからスプレッドシートに打ち直す。この2回目が無くなります。写真もその場で残せます。請求書の下書きシフトを組む仕事でも、結局いちばん時間を食っているのは、判断ではなくこの打ち直しの往復です。

具体的には、効く職場と効かない職場がはっきり分かれます。効くのは、記録する場所と入力する場所が離れている仕事——清掃、点検、配送、現場の日報。効きにくいのは、もともと全員がパソコンの前で入力している職場です。そこでは変化が小さいので、無理に入れなくていいと思います。

まとめ

スプレッドシートのアプリ化で迷うのは、道具が難しいからではなく、並んでいる道具が別々の仕事をしているのに、同じ棚に置かれているからです。画面が欲しいなら AppSheet、自動化なら GAS。無料で試して、使われたら契約する。Gemini が作るのは新しい表の上のアプリ。アプリにしないほうがいい表が2つある。決めるのに必要なのは、この4つだけです。

私はどの道具の代理店でもありません。だから「入れないほうがいいです」と言えます。それは、自分の現場で使うために作って、使われずに終わったものも見てきたからです。使われなかった理由は、いつも道具ではなく、表の形と、受け渡しの有無でした。

いま使っているスプレッドシートを1枚見せていただければ、それがアプリにできる形か、それともまだ表のままのほうがいいかを、いっしょに見るところから始められます。何を作りたいかが決まっていなくても大丈夫です。