自分の機嫌は、自分で取っていい。

自分の機嫌は、自分で取っていい。

最初に、ひとつだけ。やさしく、でもはっきり言わせてください。

自分の機嫌を、自分で取れるようになると、あなたの人生は、たぶん思っているよりずっと軽くなります。本来出せたはずの力が、すっと出るようになる。

この記事は、「つらいよね、わかるよ」と頭をなでて終わる話でも、上から「もっと頑張れ」と叱る話でもありません。今日から何を、どう変えればいいのか。具体的に、はっきり書きます。

そのかわり、読んだら、ひとつでいいから、ほんとうにやってみてほしいんです。それが、わたしからあなたへの、いちばんの応援です。

不機嫌になるのは、あなたが弱いからじゃない

まず、知っておいてほしい事実があります。これを知るだけで、たぶん少し、ラクになるから。

人間の脳は、放っておくと、一日の95%くらいの時間を、「過去」か「未来」のことを考えるのに使ってしまうそうです。

過去のこと、というのは後悔ですね。「あのとき、ああ言わなければよかった」「なんであんなミスをしたんだろう」。

未来のこと、というのは不安です。「うまくいかなかったらどうしよう」「あの人にどう思われてるかな」「来月の数字、足りるかな」。

気づいたら、頭の中がそればっかりになっている。それで、なんとなく重い。なんとなく、機嫌が悪い。

これね、あなたの心が弱いからじゃ、ないんです。

ネガティブな人間だからでも、感謝が足りないからでも、性格がよくないからでもない。ただ単に、脳がそういうふうにできているだけ。放っておけば、誰だって、そっちに引っぱられていく。一流の人だって、放っておけば同じです。

わたしはこの話を知ったとき、ちょっと泣きそうになったんです。だって、ずっと「また落ち込んでる自分」を、責めてきたから。「人の目ばっかり気にして、情けないな」って。でも、それは脳の初期設定みたいなものだったんですね。あなたのせいじゃ、なかったんです。

だからまず、ここで。今まで自分を責めてきた分を、そっと下ろしてあげてください。あなたは、ちゃんと、よくやってきました。

でも、そこから戻ってくるのは、あなたにしかできない

ひとつだけ、やさしく線を引いておきたいことがあります。

不機嫌になること自体は、あなたのせいじゃない。これは、さっきお話しした通り。

でもね、そこから自分を引き戻してあげることは、あなたにしかできないんです。

雨が降るのは、あなたのせいじゃありません。でも、傘を持つかどうかは、あなたが決められる。それと同じことなんです。

脳の初期設定が不機嫌に傾いているなら、そこから自分を戻してあげる技術を、ゆっくり身につけていけばいい。それは、誰かが代わりにやってくれるものじゃない。上司も、家族も、AIも、あなたの機嫌の面倒までは見てくれません。自分の機嫌だけは、最後まで、あなたの手の中にあるんです。

これ、突き放しているように聞こえたら、ごめんなさい。逆なんです。

「自分の機嫌は、自分で取っていい」。これって、すごく自由なことだと思いませんか。誰かの機嫌に振り回されなくていい。天気や、他人の一言に、人生を握られなくていい。自分の機嫌のハンドルを、自分の手に取り戻す。それは、義務というより、あなたに与えられた権利みたいなものなんです。

あなたの機嫌は、思っているより遠くまで届いている

「自分の機嫌くらい、自分の問題でしょ」。そう思う気持ちも、わかります。でも、機嫌って、ちょっとだけ、自分の外にもこぼれていくものなんですね。

たとえば、職場にひとり、不機嫌な人がいるとします。とくに、その人がチームを率いる立場だったりすると、まわりの人たちは、その人の顔色をうかがうことに、たくさんの時間を使うようになる。

「今日は機嫌、悪そうだな」「この話、今しないほうがいいかな」「どう言えば、怒られないかな」。

これって、本来の仕事とは、ほとんど関係ないことですよね。でも、人はそこに、知らず知らず、一日のかなりを使ってしまう。みんなのやさしさや気づかいが、すり減っていってしまうんです。

そして、もうひとつ。不機嫌なとき、わたしたち自身も、いちばんいい仕事ができなくなっています。

だって、頭の中が、過去の後悔と未来の不安でいっぱいだから。目の前のことに、まっすぐ集中できない。判断が雑になって、焦って間違える。

人がほんとうに力を出せるのは、心が「揺らがず、囚われず、流れるように」ととのっているとき。スポーツ心理学では、これを「フロー」と呼ぶそうです。一流のアスリートが、ここ一番でゾーンに入る、あの感じ。

おもしろいのは、この「フロー」という最高の集中状態と、「機嫌がいい」という状態が、ほとんど同じ景色だということ。

つまり、ご機嫌でいることは、ぼんやり幸せでいることじゃない。あなたが、持っている力を、いちばん素直に出し切るための、コンディションそのものなんです。

アスリートが試合前に体をととのえるように、あなたも、何かに取りかかる前に、機嫌をととのえてあげる。それは、甘えでも、贅沢でもありません。ちゃんとした、準備なんです。

魔法の言葉、「今ここ自分」

では、乱れた機嫌を、実際にどう戻していくか。精神論じゃなく、具体的な手順を書きますね。

脳が勝手に過去や未来へ飛んでいくなら、わたしたちにできることは、飛んでいった心を、そのつど、そっと現在に連れ戻してあげること。これだけです。

そのための、短くて、つよい言葉があります。

「今ここ自分」

使い方は、こうです。

仕事中、ふと、来週のプレゼンが不安になってきた。あるいは、さっきの会議での自分の発言を思い出して、いたたまれなくなった。誰かにどう思われているか気になって、手が止まった。

そういう自分に気づいた瞬間、心の中で、そっと「今ここ自分」とつぶやく。そして、こう問い直すんです。

「で、今、わたしにできることは、なんだろう?」

未来の不安は、未来になるまでわからない。過去の後悔は、もう変えられない。他人の評価は、自分ではどうにもできない。だったら、手をつけられるのは、「今、ここで、自分が」できることだけ。そこに、意識をやさしく戻してあげる。

これは、気合いでも根性でもありません。気づいて、唱えて、戻す。この三つを、淡々と繰り返すだけ。

正直に言うと、最初は、ぜんぜんうまくいきません。一日に何十回も心は飛んでいくし、戻したそばから、また飛ぶ。でも、それでいいんです。飛んだら戻す、飛んだら戻す。この繰り返しそのものが、トレーニングなんです。一回で腹筋が割れないのと同じで、一回で機嫌がととのうわけがない。回数で、ゆっくり変わっていくものなんです。

「ポジティブに考えよう」が、しんどいあなたへ

ここで、ひとつだけ、誤解をやさしくほどいておきたいんです。

「機嫌をととのえる」と言うと、「要するに、前向きに考えろってことね」と受け取る人がいます。そして、それが、しんどい。つらいときに「ポジティブに!」と言われると、つらがっている自分まで否定された気がして、もっと落ちてしまう。

わたしも、そうでした。だから、はっきり言わせてください。

ご機嫌でいることは、無理やりポジティブになることじゃ、ないんです。

たとえば、こういうことです。

利き手の右手を、ケガしてしまったとします。動かない、痛い。これは、変えようのない現実。ここで「右手は痛くない、元気だ!」と思い込もうとするのが、無理なポジティブシンキング。たいてい、うまくいきません。だって、現実を否定するのは、無理があるし、しんどいから。

そうじゃなくて。やるのは、こっちなんです。

「右手は今、使えない。じゃあ、左手で何ができるだろう?」

現実は、現実として、ちゃんと見る。痛いものは痛い、うまくいかないものはうまくいかない。それを認めたうえで、「この状況で、自分にできることは何か」を探す。これは、夢見がちな話じゃなくて、すごく地に足のついた、現実的な態度なんですね。

機嫌のいい人って、能天気な人じゃないんです。むしろ、現実を誰よりもよく見たうえで、「使える左手」を冷静に数えられる人のこと。

だから、もしあなたが「ポジティブでいなきゃ」に疲れているなら、安心してください。現実を見ないふりをする必要は、まったくない。むしろ、ちゃんと見ていい。見たうえで、左手を探す。それだけで、いいんです。

自分の機嫌を、スマホみたいに大事にする

ここからは、今日からできる、具体的なトレーニングです。読んで終わりにしないで、よかったら、ほんとうにやってみてください。

紙とペンを用意します(スマホのメモでもいいです)。そして、こう書き出してみる。

「自分が機嫌よくいると、具体的に、どんないいことがあるんだろう?」

たとえば、こんなふうに。

  • 家族や、大切な人に、やさしくできる
  • 仕事の判断を、焦らずに正しく下せる。ミスが減る
  • 一緒にいる人の表情が、なんだかゆるむ。場の空気がよくなる
  • アイデアが、自然と湧いてくる。視野が広がる
  • 夜、ちゃんと眠れる
  • 自分のことを、少しは好きでいられる

なんでもいいんです。あなたにとっての「いいこと」を、できれば五つ、できたら十個、書き出してみてください。

なぜ、これをやるのか。機嫌の「価値」を、自分の目に見えるようにするためです。

人は、価値があると本気で思っているものは、ちゃんと大事にしますよね。

考えてみてください。あなたは、スマホをそのへんに置きっぱなしにして、しょっちゅう失くしたりしますか。たぶん、しない。無意識に、気をつけているはずです。なぜなら、それが大事なものだと、ちゃんとわかっているから。

機嫌も、それと、まったく同じなんです。

「自分の機嫌は、これだけのものを生み出してくれる、かけがえのない大切なものだ」と心から思えていれば、人はそれを、そう簡単には手放さなくなる。外から不機嫌になる理由がやってきても、「いや、これはわたしの大事なものだから」と、ぐっと握っていられるようになるんです。

ここで、ひとつだけ、やさしく厳しいことを言わせてください。

不機嫌になる理由を見つけるのは、世界でいちばん、かんたんなことなんです。今日だって、探せばいくらでも出てきます。電車が遅れた、返信が冷たかった、雨が降っている、誰かに嫌味を言われた。理由なんて、無限に湧いてくる。

でもね。その理由に乗っかって、不機嫌でいつづけるのは、いちばんラクで、いちばんもったいない選択なんです。理由を探して機嫌を手放すのは、誰でもタダでできる。でも、自分で自分の機嫌を取りにいくのは、練習した人にしかできない。

どっちの自分になるか。それは、あなたが選んでいいんです。

書き出して、価値を確かめて、「今ここ自分」と唱えて、戻す。毎日、少しずつ。地味です。でも、地味なことを続けた人だけが、ゆっくり、でも確実に、景色を変えていきます。

もし、あなたが誰かを率いる立場なら

もしあなたが、チームを持っていたり、後輩を育てていたり、あるいは家庭で子どもと向き合っているのなら。この話は、もう一段、深いところまで届きます。

人を率いるって、たぶん、「待てる」ということなんだと思うんです。

人に何かをしてもらおうとするとき、わたしたちはつい、「期待」というスタンスを取ってしまいます。

「これくらいやってくれるよね」「もっと、こうあるべきだよね」。

期待って、やさしい言葉に見えて、じつはちょっと重たいんですよね。気づかないうちに、相手を自分の枠にはめてしまう。そして相手がその枠からはみ出した瞬間、こっちが勝手にがっかりして、機嫌を乱す。相手は相手で、その枠を窮屈に感じて、そっと反発する。だれも、しあわせになれないんです。

だから、「期待」ではなく「応援」で接してほしいんです。

応援は、ちがいます。「あなたが、あなたのやり方で、うまくいきますように」。ただ、それだけ。枠がないから、相手はのびのびできる。

でも、ここを勘違いしないでください。応援は、甘やかすことじゃ、ありません。むしろ、逆。

本気で応援している人ほど、ちゃんと、はっきり言うんです。「ここは、こうしてほしい」「今のは、ちがうと思う」って。なぜなら、相手の力を、心から信じているから。どうでもいい相手には、人はそこまで言いません。やさしさって、ぼかすことじゃなくて、ちゃんと伝えることなんだと思います。

だから、指示は、あいまいにしないでください。「いい感じにやっといて」は、やさしさのふりをした、いちばん不親切な言葉です。何を、どこまで、いつまでに。そこは、具体的に、明確に。それが、相手を迷子にさせないための、本当のやさしさなんです。

そのうえで、相手の心には、こう接してあげてほしい。

「同意」よりも、まず「理解」を。

相手の言うこと全部に、うなずく必要はありません。厳しく言うべきときは、言っていい。でも、その前に、ひと呼吸。「ああ、そう感じたんだね」って、まず受け止めてあげてください。賛成しなくていいんです。わかってあげるだけで。

不思議なんですけど、人って「わかってもらえた」と感じた相手の言葉なら、たとえ厳しくても、ちゃんと受け取れるんですよね。順番なんです。理解が先、要求はそのあと。ここを逆にすると、どんな正論も、相手の心には届きません。

そして、いちばん大事なこと。

「結果」ではなく、「変化」を見てあげてください。

今日の数字、今この瞬間のできばえ。それだけで人を判断すると、たいてい、見誤ります。だって人は、まっすぐには伸びないから。伸びる前に、いったん停滞したり、しゃがみこんだりするものなんです。

だから、少し時間の幅を持って、見てあげてほしい。「半年前より、ここができるようになったな」「あのころより、いい顔をするようになったな」。その小さな変化に気づいて、声をかけてあげる。

人は、結果を求める人の前では、縮こまります。でも、変化を見ていてくれる人の前では、ちゃんと育つんです。

厳しくしていい。甘やかさなくていい。具体的に、はっきり言っていい。ただ、見放さないで。待っていてあげてください。それがきっと、応援するということ。

そして――この三つを、誰かにしてあげる前に。まず、あなた自身に、してあげてほしいんです。

自分に期待しすぎないで、応援する。自分の感情を、まず理解してあげる。今日の結果じゃなくて、ちょっと前からの自分の変化を、見てあげる。

人にやさしくできる人って、たいてい、自分にやさしくする練習をした人なんだと思います。

AIが戦略を立てる時代に、最後に残るもの

最後に、少しだけ、これからの話を。

これからの時代は、AIが、優れた戦略をいくらでも立ててくれるようになります。情報を集めるのも、分析するのも、計画を組むのも、機械のほうが、ずっと速くて正確になっていく。

そうなったとき、人間に最後に残る、いちばん大事な価値ってなんだろう。

わたしはそれが、「その戦略を、どんな心で実行するか」だと思うんです。

どんなに完璧な計画でも、それを動かすのは、人間の心です。不安で揺らいでいたら、いい計画も台無しになる。焦って判断を誤って、まわりの空気を壊してしまう。逆に、心がととのっていれば、平凡な計画でも、思いがけず、いい方向へ転がっていく。

つまり、これからは「自分の機嫌を、自分でととのえられる」ということが、その人のいちばん価値ある資本になっていく。お金や肩書きみたいに数字で測れるものじゃないけれど、確かに、いい成果を生み出す、人としての資本です。

それはきっと、声が大きいわけでも、目立つわけでもない、いちばん静かな力です。でも、いちばん、強い。

最後に、もう一度だけ。

不機嫌になるのは、あなたのせいじゃない。でも、そこから戻ってくることは、あなたにできる。脳の癖に流されたままでいるか、それとも、ゆっくり練習して、取り返していくか。選ぶのは、あなた自身です。

わたしは、あなたなら、戻ってこられると、本気で思っています。だから、ところどころ、厳しいことも書きました。これは、突き放しじゃなくて、応援です。

今日、紙に一行でいい。「機嫌がいいと、自分にどんないいことがあるか」を、書いてみてください。それが、はじめの一歩。

そして、心が遠くへ飛んでいったら、何度でも、そっとつぶやいてください。

今ここ自分。

あなたなら、きっと、大丈夫です。

よくある質問

Q. 不機嫌になるのは、自分のせいですか?

いいえ。人間の脳は放っておくと、一日の大半を過去の後悔や未来の不安に使ってしまうそうです。なんとなく機嫌が悪くなるのは脳の癖のようなもので、あなたが弱いからでも、性格が悪いからでもありません。ただし、そこから自分を引き戻すことは、あなたにしかできません。雨が降るのは選べなくても、傘を持つかどうかは選べる。それと同じです。

Q. 「ポジティブに考えること」と、ご機嫌でいることは同じですか?

違います。ご機嫌でいることは、つらい現実を「痛くない」と思い込むことではありません。利き手をケガしたとき「痛くない」と念じるのではなく、「左手で何ができるか」を探す。現実をちゃんと見たうえで、今の自分にできることへ意識を向ける、地に足のついた態度です。

Q. 自分の機嫌を、自分でととのえるには何から始めればいいですか?

ふたつあります。ひとつは「自分が機嫌よくいると、どんないいことがあるか」を紙に書き出して、機嫌の価値を目に見えるようにすること。もうひとつは、心が過去や未来へ飛んだら「今ここ自分」とつぶやき、「今、自分にできることは何か」に意識を戻すこと。気づいて、唱えて、戻す。この繰り返しそのものが練習になります。

Q. 人を育てる立場で、気をつけることはありますか?

「期待」ではなく「応援」で接することです。ただし応援は甘やかしではなく、指示は具体的に、はっきり伝えていい。そのうえで「同意」より先に「理解」を、「結果」だけでなく「変化」を見てあげる。そしてこの三つは、誰かにする前に、まず自分自身にしてあげてください。

「ととのえる」を屋号にしているのは、たぶん、こういうことなんだと思います。HPのことも、現場のことも、その手前にある「心の状態」も。あなたの手元のなにかを、少し軽くするお手伝いができたら。何をしたいか決まっていなくても、いまの困りごとを聞かせてもらう所から始められます。

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